ガン治療の最前線
3-1b 小児がんの治療体系:多施設試験、標準化、国際連携
小児がんは極めて希少で多様性に富む疾患群であり、個別医療機関のみでの十分な症例蓄積が困難である。このため、治療体系は当初から多施設共同臨床試験(clinical trial consortium)を基盤とし、標準治療の確立と医療の均てん化が重視されてきた。
日本においては、2016年に小児がん拠点病院制度が発足し、全国15の小児がん拠点病院および連携病院が診療・研究・支援の中核を担っている(厚生労働省, 2023)。この体制は、がん診療連携拠点病院とは別系統で構築され、小児特有の疾患特性、成育支援、教育連携等に特化した医療モデルを志向している。
小児がんの臨床研究体制としては、2014年に発足した**日本小児がん研究グループ(JCCG)**が中心的役割を担う。JCCGは、日本小児白血病リンパ腫研究グループ(JPLSG)と日本小児固形腫瘍研究グループ(JSPHO-Solid)の統合により設立され、年間100件を超える臨床試験を実施し、各がん種に応じた標準治療プロトコルの更新・評価を行っている(JCCG, 2023)。
治療プロトコルの標準化は、治療成績の向上と医療格差の縮小に寄与してきた一方で、個々の遺伝子異常や治療耐性に応じた柔軟なプロトコル修正も重要性を増している。近年は、ゲノム解析や分子マーカーに基づく「分子層別化試験(molecular stratified trial)」が導入され、標準化と個別化のバランスを保つことが求められている。
また、国際的な研究連携も進展しており、欧州のSIOP(International Society of Paediatric Oncology)、米国のCOG(Children’s Oncology Group)、英国の**CCLG(Children’s Cancer and Leukaemia Group)**などとの共同試験が複数展開されている。とくに希少疾患や難治症例においては、国際治験の意義が極めて大きく、国境を越えた患者登録とエビデンス創出が不可欠である(Vassal et al., 2016)。
一方、小児用医薬品開発の法制度的課題も深刻である。対象患者数の少なさに加え、開発インセンティブの不足が指摘されており、欧米では小児適応取得を促す優遇措置(Pediatric Investigation Plan:PIP)や希少疾病指定制度が導入されている。日本国内においても、希少疾患用医薬品指定制度(Orphan Drug Designation)の活用と規制緩和が求められている(日本製薬工業協会, 2022)。
このように、小児がんの治療体系は、疾患の特殊性と稀少性に対応した多施設・多国間連携モデルによって支えられており、今後はより柔軟かつ迅速な臨床研究インフラの整備が鍵を握る。
参考文献(APAスタイル)
厚生労働省. (2023). 小児がん拠点病院の指定状況. https://www.mhlw.go.jp/
JCCG(日本小児がん研究グループ). (2023). JCCGの活動と臨床研究実績. https://www.jccg.jp/
Vassal, G., Rousseau, R., Blanc, P., Moreno, L., Bode, G., Schwoebel, A., & Pearson, A. D. J. (2016). Creating a unique, multi-stakeholder Paediatric Oncology Platform to improve drug development for children and adolescents with cancer. European Journal of Cancer, 62, 124–131. https://doi.org/10.1016/j.ejca.2016.03.009
日本製薬工業協会. (2022). 小児用医薬品開発に関する政策提言. https://www.jpma.or.jp/